Oze-0w0’s diary

大学生ですよ。

残り??日、移ろう季節①

 

 あの衝撃の出来事から僕の日々は急に色づき始めたように思う。

 

 もう歩みを止める言い訳も、迷う理由も考える暇もないくらい、あっという間に日々は過ぎていった。

 

 きっと周りから見たら別人に見えただろうな。

 

 僕自信、あの時を振り返ると誰やねん!って思うくらいだから。

 

 まずはボランティアで色んな人の話を聞きまくった。とっくに50人を超えても止まらなかった。

 

 なんでボランティアに参加してるの?とか

 夢とか目標とか何かある?とか

 

 今思えば変人だったり何かのインタビューをしてる人だったり思われたんだろうな。

 

 噂になったのか分からないが、向こうから話してくることが増えたんだ。色んな話を聞いた。

 

 ニートを脱却したいとか、少しでも人の役に立ちたいとか、この土地が好きだからとか。

 

 その中でもビックリしたのが社長がいたことだ。

 

 ○○会社っていう日本だけでなく世界的に有名な社長が泥や汗にまみれながらツルハシ振ってたんだ。

 

 多分これが一番ボランティアにいって良かったことだと思う。

 

 僕は勿論話を聞きに行った。すると社長も僕に興味を持ったらしく、二人でツルハシ振りながら話したよ。

 

 面白かった。運良く社長と仲良くなって、今度飯でも行こうって言われて、すっごく嬉しかった。

 

 そこでね、僕は1つ、いや2つのお願いをしたんだよ。僕の友人と会ってくれないかっていうのと、引きこもりの弟をそとに連れ出すのに手伝って欲しい、って。

 

 正直無茶なお願いだった。ダメで元々だったんだ。

 

 社長ね、その話を聞くと一秒もかからず「良いよ」。

 「今度連れておいで」って。

 

 飛び上がって喜んだよ。本当に嬉しかったんだ。

 

 僕はすぐにあいつを連れてきたね。

 

 するとさ、社長とすっかり意気投合して僕を置いて話してやんの。

 

 僕は心底あいつに恩を返したいって思ってた。

 なにかしてあげたいって、ずっとおもってたんだ。

 

 本当にボランティアに参加して良かった。

 

 あぁ、これで1つ後悔は減ったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り86日、果てに求めるもの

 

 気が付くと、あの白い空間に戻って来ていた。

 

 「どうだった?あの道の果てにいる君を見て、どう思ったか、僕に教えてくれるかい?」

 

 クロが僕に問いかけてくる。

 

 「僕は、あの光景を見て、酷く安心してしまったよ。ははっ、恐ろしいとか嫌だ、とかじゃなく安心したんだ。」

 

 もしもの世界で生きる僕が今の僕と変わらなくて心から良かったと思ってる。

 

 仮に幸せだったら、今頃はどうしようもなく妬んで、恨んでいることだろう。

 

 だってそれはあまりにも狡いじゃないか。

 

 「クロはそんな僕を軽蔑する?」

 

 僕は自虐しながらも、内心軽蔑されても仕方ないと思いながら、クロの様子を伺った。

 

 「いいや、しないよ。」

 

 クロが嘘をついている様子はない。

 むしろどこか慈愛を含んだ声色だった。

 

 「君は君だもの。この道の君とあの道の君は限りなく近いだけで、全く違う。彼と君は他人なんだ。」

 

 「人が他人を妬むなんてよくあることだし、別に何とも思わないよ。」

 

 クロはそこで一度区切ると、一呼吸おいて話し始めた。

 

 「それで君はこれからどうするの?彼は他人だけど、確かに君なんだ。後悔して死なないように何をする?」

 

 僕はこれに対し答えは出ていた。

 僕には夢がない、目標もない。

 

 だけど確かにあの道の僕が、答えを出していた。

 

 「後悔しそうなことを先に済ませておくよ。」

 

 クロは僕の答えを聞くと満足そうに頷いて、さらに問いかけてきた。

 

 「じゃあ、明日やることは?」

 

 「ボランティアに参加している人の話を聞いてみる。大丈夫、きちんと目的があるんだ。」

 

 僕はもう一度クロからの指令をやってみる。

 今度は目的を持ってやるんだ。

 

 「参加している人の目的を聞くのが目的。きっと一人一人に参加している理由があると思う。それを聞いて証を残すための何かを形作るんだ。」

 

 あの世界のあいつは証を残した。

 しっかりと爪痕を残して、逝ったんだ。

 

 だから僕も、あいつみたいに積極的に動こうと思う。

 

 僕は頭の中で後悔しそうなことを、リストアップしていく。

 

 あぁ、なんだ。

 やりたいことがどんどん出てくる。

 

 「そしてね、引きこもりの弟を引っ張りだす。」

 

 「更にバイト先の先輩に告白をする。」

 

 「家族で昔みたいにゲームなんかしたいな。」

 

 「姉の嫁ぎ先に挨拶にも行きたい。」

 

 「あいつにはこれから先、ずっと助けになるようなこともしてあげたい。」

 

 残り90日もない僕にとって、これくらい出来たらきっと満足できるだろう。

 

 満足まではいかなかったとしても、後悔は無くなると思う。

 

 「クロ、よろしく頼むね。」

 

 僕は今更ながらクロに協力を頼んだ。

 

 こんなに骨を折ってくれたクロの為にも頑張らなきゃいけないな。

 

 クロは僕に大変嬉しそうに言ったんだ。

 

 「任せてよ!!」

 

 あぁ、任せた。

 

 ありがとう、クロ。

 

 本当にありがとう。

 

 

 

 残り86日

 

残り□日、いきたかった世界②

 

 わしには夢が無かった。 

 

 普通だったら1つくらいやりたいことがあるじゃろうが、わしには無かった。

 

 わしはずっと流されて生きてきた。なんとなくで高校に入り、何の目標も無いまま大学へと進学した。

 

 別に不満は無かった。むしろ掛け替えの無い親友が出来て、良かったとすら思うわい。

 

 あやつは凄いやつでの、前向きなやつで成功するべくして成功したようなやつじゃった。

 

 わしにとってあやつと友達になれたのは何よりの誇りじゃ。

 

 しかしの、だから駄目じゃったのかもしれぬ。

 

 わしはの、結局何の目標も持てなかったのじゃ。

 

 代わり映えの無い、だけど確かに安定した日々。授業を受け、バイトへ行き、帰ってゲームをして寝る。

 

 そんな日々はわしにとって何より安心できるモノじゃった。

 

 だからかの、わしは変わりたいと、親友であるあやつのようになりたいと思っていながら、心の奥底ではこの安心できる揺りかごにいつまでも浸っていたいと思っていたのじゃ。

 

 そのまま大学を卒業して、会社に勤めるようになったわしは、結婚や何かに打ち込むような事をせず、日々を漠然と過ごしていった。

 

 そんな日々でわしの唯一の楽しみはの、あやつとの飲み会じゃったよ。

 

 本当に楽しい飲み会じゃった。

 

 あやつは会う度にどんどん凄くなっていっての、元々あった差が大きく、大きくなっていった。

 

 じゃけどあやつは1回もわしを下に見なかった。圧倒的にあやつの方が上なのに関わらず、ずっと対等な友として見てくれた。

 

 そうして昨年になってあやつは逝ってもうたわい。

 

 事故などではない、寿命だと。

 

 あやつはの、わしとは違い結婚もして社長になって大往生して天へと逝ったのよ。

 

 それに比べわしはどうしているのかの。

 

 独り寂しくここで外を眺めるだけ。

 

 わしはな、変わるべきじゃった。

 あやつと肩を並べて笑いながら生きていきたかった。

 

 今更ながらにそう思うわい。

 

 それにの1つだけ、本当に1つだけ後悔していることがある。

 

 わしにはの、引きこもりの弟がいたのじゃよ。

 

 子供の頃の弟は兄ちゃん、兄ちゃんってわしにくっついて回ってきての、可愛かったわい。

 

 しかしのわしが高校に、弟が中学に中学したあたりから、パッタリと話さなくなった。

 

 多分、わしのせいじゃろう。

 

 それこそ高校に入学してすぐにの、いつものように弟が構ってきたのじゃよ。しかしのその時わしは虫の居所が悪かった。もう、理由なんて覚えておらぬ。

 

 じゃがの、わしは八つ当たりを弟にしたのじゃよ。

 

 我ながら酷く情けない。

 

 それからかの、話さなくなっての、弟は引きこもりがちになっていったのじゃ。

 

 年月が経ち、わしがの40歳くらいの時じゃ

 

 弟が首をくくって逝ってしまった。

 

 残された遺書には「ごめんなさい」と書かれておったよ。

 

 理由なんて定かでは無いがの、何故自殺したのか、わしにも分かる気がするわい。

 

 実はの、わしも自殺を図ったことがある。手首をナイフで切ったのじゃよ。

 

 あの時はの、わしは死にたかったのじゃよ。

 

 何の変化もしない、生きる意味を見出だせない日々がわしにとって拷問じゃった。これが残り何年も続くと思うと、耐えられなかったのじゃよ。

 

 しかし偶々あやつがわしの家に訪れ、わしを助けたのじゃ。嫌な予感がしたと言っておったよ。

 

 わしはあやつに今度こそ見捨てられると思ったが、あやつはわしに「弟の分まで生きろ!!」と怒鳴りつけて、友達のままでいてくれたのじゃよ。

 

 それから今ままで生きてきた。

 

 もしあの時、邪険にせず、どこかで部屋から引っ張り出せたのなら、弟は死なずに済んだのか。

 

 最近ではそのことばかり浮かんでくる。

 

 あぁ、すまんの若者よ、こんな暗い話しをして。

 

 して答えじゃったか、わしは幸せではなかった。

 不幸でもなかった。

 

 これはわしが選んだ道で、自業自得じゃよ。

 

 だからこその、若者よ。

 

 自分で道を決めるのじゃ。

 迷っても良い、寄り道をしたって、戻ったって良い。

 

 しっかりと考えて道を決め、進むのじゃよ。

 

 そしての、目的があると尚更良い。

 

 もしわしと同じように何の目的も無かったなら、後々後悔するかもしれないことを先にやってしまいなさい。

 

 本当に後悔した時には、全て終わってるからの。

 

 若者よ、ありがとう。こんな老いぼれの長話に付き合ってもらっての。

 

 そういうと年老いた僕はゆっくりと窓の外へと顔を背けた。

 

 その横顔にはやはり、寂しさが滲んでいるようだった。

 

 

 

 

残り■日、いきたかった世界①

 

 ぼんやりと目をあける。

 

 そこにはスーツを着た1人の男性がデスクに向かって何か作業をしているようだった。

 

 時折眠たそうに目を擦りながら黙々と作業を続けている。

 

 僕はあたりを見渡した。

 そこは何処かのオフィスの用で、外はもう真っ暗だ。

 

 それからしばらくすると、同じように作業をしていた中年男性がパソコンの電源を落とし、荷物を鞄に詰めて立ち上がると、声をかけた。

 

 「おい、資料作りはもう終わったか。俺はもう帰るがしっかりと資料は作っとけよ。明日は大事なプレゼンがあるかならな。」

 

 「はい、分かりました。お気をつけてお帰りください。先輩。」

 

 「おう、またな。」

 

 どうやら中年の男性と目の前の男性は先輩後輩の関係らしい。

 

 それから2時間ほど経つと作業が終わったのか、男性は帰り支度をはじめた。

 

 「はぁ、もう辞めようかな。でもなー。」

 

 どうやらこの会社を辞めたいらしい。もし、僕だったら何かと理由をつけてだらだらやるんだろう。

 

 男性は帰り支度を済ませるとタメ息を吐きながら部屋を出ていった。

 

 

 するとチャンネルが変わるように視界が変わった。

 

 

 今度はどこか冴えない不幸そうな中年の男性が自宅であろう洗面台で顔を洗っている。

 

 男はタメ息を吐きながら鏡を見て呟くように言った。

 

 「変わりたい。」

 

 すると今度はどこかの居酒屋で見覚えのある男と酒を交わし話していた。

 

 「で?最近どうよ?」

 

 男は中年の男性、僕とは真逆で活気に満ち溢れたようにきいてきた。

 

 「まぁ、まずまずだよ。」

 

 僕は彼に誤魔化すように、見栄を張るように言った。

 

 彼はそんな僕を見ると頭を左右に振りながら諭すように言ってきた。

 

 「かぁー!そんな生活楽しいか?いい加減結婚したらどうよ?俺が紹介してやろうか?」

 

 「いいよ、別に。結婚したいとも思ってないし。」

 

 嘘だ。実は思ってる。彼のように成功して、美人な妻を持って幸せになれるなら成りたい。

 

 「だいたいよぉ、お前はいつもそうなんだ。前だって俺が会社を創る時に誘った時も、すぐに断りやがって。」

 

 そう、僕は断った。確かにあの時誘いに乗っておけば、今頃は幸せに暮らしていたかもしれないけど、彼とは友達のままでいたかったから。

 

 僕と彼はそのまま深夜まで飲み続け、店主に追い出されるように店を出た。

 

 「じゃあ、俺は帰るけどよ、何かあったら俺に言うんだぞ?力になるからよぉ。」

 

 「分かったよ。何かあったら連絡するから、気を付けて帰ってよ?」

 

 「なら良いけどよぉ。じゃあ、帰るわ。またな。」

 

 彼は意気揚々と鼻歌を歌いながら帰っていった。

 

 僕は彼を見送った後、近くのベンチに腰を掛けて大学時代のことを思い出した。

 

 いつからここまで差が出来たんだろうか。

 

 いや、もともとあった差が目に見えて現れただけかもな。なんて自嘲しながらも思う。

 

 僕も彼みたいにもっと積極的になれたら、今より幸せに成れたのかな。

 

 僕は重い足取りで家に帰ってシャワーを浴びて寝た。

 

 僕はその様子を眺めると、家の中を見渡して気付いた。

 

 家の机の上には自己啓発やら成功者の法則やらの本が積み重なっていたのだ。

 

 僕は寝ている僕を見て思う。

 結局、変わっていないんだな。

 

 期待していた。

 未来の僕が見れると聞いた時、きっと幸せになってるって、どうにかなっているって。

 

 でもこの有り様だった。

 

 僕は僕のままだったらしい。

 

 「そりゃあ、そうでしょ。彼は君なんだから。」

 

 気が付くとクロがそばにいた。

 

 「この光景を見て、どう思った?誇らしいと思うかい?」

 

 クロが問いかけてくる。

 

 「僕はね、思うんだよ。君が100日後に死ぬ道と、この君が生きたかった道。何か違うの?同じだよねって。」

 

 「だからこそ僕は焦ってる。君を100日で変えれるかって。満足して死ねるように出来るかってね。」

 

 前までの僕だったら何かしら反論しただろう、だけど今、この光景を見せられて反論なんか出来なかった。

 

 「今からこの道の果てを見せてあげる。そして君はこの道の果てにいる君に何か質問して見ると良い。大丈夫、何も問題はないから。」

 

 クロがそう言うと、また視界が変わった。

 

 

 1人の老人が病院の管に繋がれ独り寂しそうに外を眺めている。

 

 「ほら、あれがこの道の果てにいる君さ。」

 

 クロはそう言って指を指した。

 

 「色々聞いてくるといい、きっとそれは君が変わる鍵になるから。」

 

 僕は僕に近付いた。

 

 「どうも、こんにちわ。」

 

 老人である僕はゆっくりとこっちに振り向くと目を細めて挨拶を返してきた。

 

 「こんにちわ。すまんの、間違いだった悪いんじゃがどこかで会ったことはあるかの?」

 

 「いえ、初対面です。」

 

 僕は僕なんだからそりゃ見覚えがあっても可笑しくない。普通に返した。

 

 「それで何か用かの?」

 

 「幸せでしたか?」

 

 僕は初対面でこんなことをいきなり聞くのは可笑しいと思うが、どうしても聞きたかった。

 

 窓の外を寂しそうに見ているのを見て、聞きたかったのだ。

 

 「幸せではなかったのぅ。この老いぼれにそんなことを聞くんじゃ、何かあるんじゃろう?」

 

 年老いた僕は不思議そうに僕に言ったが、特に追及しくることは無かった。

 

 「まぁ、良い。少しわしの話を聞いてくれんか?」

 

 年老いた僕は、喋りたかったのかこちらの返事を聞く前に語りはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

残り87日 ボランティア②

 

 気が付いたら真っ白な空間にいた。

 

 初めは狂いそうなくらい気持ち悪い場所だったけど、流石に慣れてしまった。どこまでも真っ白な場所。

 

 ここに来たのは久々だ。そう丁度10日くらい。

 

 クロからでた「50人に話を聞く」という指令がでてから、今日まで一回もここには来れなかった。

 

 なんとなく懐かしくなりながら、真っ白な空間を見ていると正面に黒いもやが集まりだした。

 

 どうやらクロが来たようだ。

 

 「やぁ、クロ、久しぶり。50人に話を聞くことは出来なかったけど、凄くいい経験が出来た。ありがとう!」

 

 「にしてもボランティアって良いよな!人から感謝されて、人の助けになってるっていう実感がある!最近はお陰様で晴れやかな気分だよ。」

 

 「そうそう、面白い話だったよね!あるある!仲良くなったおっちゃんの話とか凄い面白いからさ!」

 

  僕はクロに会えたことが嬉しかったのか口がペラペラと止まらない。

 

  あーで、こーでと話していく内に気が付いた。

 

 いつもだったらツッコミを入れたり茶化してくるようなクロが一言も喋らない。

 

 ただ、そこで聞いているだけ。

 

 「なぁ、クロ!どうしたんだよ!具合わるいの?」

 

 

 「...だ...っても..える?」

 

 

 「ん?なんだって?」

 

 

 「だまって、もらえる?」

 

 

 「どういうことなんだよ?」

 

 「僕は君に黙れっていってんの」

 

 僕は意味が分からなかった。クロが面白い話を持ってきてって言ったくせに、いざ話し始めたら黙れって。

 

 僕はクロが何故怒っているのか分からなかった。

 

 クロは僕をジット見ていたかと思うと何かをグッとこらえるように、大きなタメ息を吐いた。

 

 「はぁー、ここまでイライラするのいつぶりだろう。地球を作ったおじさんと喧嘩した時以来かな。」

 

 

 「ねぇ、本当に僕が怒っている理由が分からない?」

 

 

 「僕さぁ、言ったよね。50人に話を聞いてねって。助言どころか指令まで出したよね。」

 

 「この意味分かんない?」

 

 「その顔を見る限り全く分かってないようだね。」

 

 「君はさ、残り87日で死ぬんだよ。そんな残り少ない大切な時間を10日も使って、たった50人に話を聞けって言ったんだよ、僕。」

 

 「まさか、話を聞くだけのちっぽけな指令だ、なんて思ってるんじゃない?」

 

 「僕はね、神様なんだよ。全てに意味があるんだよ。目的があるんだよ。」

 

 「君さ、何してたの?ここ10日、何してたの?」

 

 

 「そうだね、ボランティアに参加して話を聞いた。うん、うん、そうだね。僕が言ったことをしたんだよね。」

 

 「でもさ、それ、やっただけ、なんだよね。」

 

 

 「あぁ、だめだイライラする。君さ、僕の人形なの?頭を使いなよ。」

 

 「君、一度だっていいから僕が何故君の前に毎晩現れて話してるか、考えたことある?」

 

 「100日後に死ぬ犬の話が好きだからって言ってたって?確かに僕はそう言ったよ。でも言っただけなんだよ。」

 

 「僕の目的は何だと思う?本当に100日後に死ぬ犬の話の流れに乗ってみただけ、だと思うかい?」

 

 「僕はね、神様なんだよ。」

 

 「神様なんだよ。」

 

 

 「たった1人の人間の為に、神が自ら動くと思うかい?」

 

 

 「君があまりにも情けないから言うけど、僕は頼まれたの。君が後悔して死なないように助けて上げて下さいって。だからこんなことをしてるの。」

 

 「その意味、分かる?」

 

 

 「君はこのままだと、間違いなく後悔して死にます。どこかで変わらないと、後悔にまみれて死にます。」

 

 「君は今のままで満足して死ねると思うかい?」

 

 「無理だと思っているから、初めに困ります。なんて言ったんだろう?」

 

 

 「本当に情けない。」

 

 「現実、みてる?」

 

 

 僕はクロの話を呆然と聞き続けた。一つ一つの言葉が抜き身の刃のように鋭く刺さってくる。

 

 クロの話はどうしようもなく図星をついて、気が付きたくないことばっかり、気付かせてくる。

 

 だけど、どうしようもないじゃないか。

 

 変わりたいって何度も思った。

 

 でも変われなかった。だからこんなことになってる。

 

 変わりたいけど、変われないんだよ。

 

 「本当に変わりたいって思ってる?」

 

 思ってる

 

 「嘘だね、君は変わりたくないんだ。」

 

 ちがう

 

 「君は怖いだけ、逃げてるだけだ。」

 

 逃げてなんか...

 

  「いいや、逃げてる。」

 

 「君が選んだんだよ、君が変わらずに行くという道を選んだんだよ。この臆病者。」

 

 うるさいッ!!

 

 お前に何が分かる!

 僕の命はあと100日だって?!

 後悔して死ぬだって?!

 余計なお世話だよ!!

 

 変わりたくないだけだって!?

 怖いから逃げてるだけだって!?

 あー!そうだよ!その通りだよ!!

 

 僕はこんなこと知りたくなかった!!

 なんで僕なんだよ!?

 

 なんで!なんで!

 僕は僕の中で出来ることを精一杯やってきた!!

 

 ボランティアだって、クロに言われて必死に参加した!指令を果たそうと無理をして話を聞きに行った!!

 

 なのに、なんで、

 こんなことを、言われなきゃいけないんだよ…。

 

 

 「君に後悔して死んでほしくないから。」

 

 もぅ、ぃいよ。

 

 「ごめんね、そこまで追い詰めるつもりはなかった。」

 

 いい、全部事実だ。

 

 「分かった。僕が君をそこまで追い詰めてしまったかもしれないから、特別に見せてあげるよ。」

 

 なにをいって

 

 「君が死ななかった世界、俗にいうパラレルワールドを。」

 

 

 「幸せであるといいね。」

 

 その言葉を最後に、僕の視界は黒に塗りつぶされた。

 

 

残り86日

  

 

 

 

残り90日 ボランティア①

 

 というわけで、神様の助言によりボランティアに参加をしてきたが正直なめてた。

 

 参加したボランティアは先月降った大雨によって起きた土砂崩れによって、家まで侵入した土砂を除くというもの。

 

 たまたま場所が家から近かった為に参加してみたのだ。

 

 「腕がパンパン、太股も痛い」

 

 これが結構な重労働で、現在僕は筋肉痛という名誉の負傷に襲われている最中というわけである。

 

 だけど、ボランティアに参加して後悔はしていない。

 なんというか凄く誇らしい良い気分だ。

 

 僕が住んでいるボロアパートで痛みに喘いでいると、大学の友達から電話が掛かってきた。

 

 「もしもーし、今夜飲みに行かん?え?体が痛いし疲れたからもう寝る?何やってんの?そういえばお前今日大学休んでたよな。運動会でも行ってきたんか?」

 

 「行ってない?ボランティアに参加して土と戯れてきたって?何やってんの?自分探し?とりあえず今から飲もう。いつもの居酒屋で待ってるからな。」ツーツー

 

 まじでか。動きたくないんだが。まぁ、しょうがないし行くか。あいつ結構強引だよなー。

 

 あいつは同じ大学の友達で一番仲が良いといえる友達だ。ちなみに男。残念です。

 

 

 「「かんぱーい!!」」

 

  あいつと僕はビールの杯をぶつけ合って思い切り中身を口の中に流し込んだ。

 

 「かー!うめぇ!やっぱビールはいいぜ!」

 

 確かにそれは凄く同意する。これが仕事おわりの1杯か、工事現場の人達にビール好きが多いいのも分かる。

 

 「それでよぉー、お前なんでボランティアなんか参加してんだ?」

 

 ちなみに僕は誰にもクロのことや夢の中のことを話してはいないし、話すつもりもない。

 

 変人呼ばわりされるか、冗談にとられるのが関の山だろう。特にこいつに変な心配でもされたら恥ずかしくて死にそうだ。

  

 「だから言ったろ?自分探しだよ。就活に活かせないかなって。」

 

 だから誤魔化す。まぁでもあながち間違いでもないけどね。

 

 「なるほどねー。そういえばさぁお前、あの子にいつ告白すんの?彼女はいいぜぇー、癒される!!」

 

 「確かに好きだけど、そこまでまだ行けないよ。だってあんまり話してないんだよ?無理に決まってるじゃないか。」

 

 そうなのだ。僕には好きな人がいる。一つ年上でバイト先の先輩だ。会ってまだ3ヶ月くらいだけど、えーと、好きなんです。くっ!彼女がいるなんて羨ましい!

 

 「はんっ、だからお前には彼女が出来ないんだよ!」

 

 「うるさいな!ほっといてくれよ!このリア充が!」

 

 僕もこいつみたいに積極的になれたらリア充になれたのだろうか。まぁ、残り少ない僕にとっては今更なことなんだけどね。

 

 

 「うぅっ、頭が痛いし体も痛い。」

 

 結局あれから閉店まで飲んで騒いだ僕らは、店主に追い出されるようにして店を後にした。

 

 近くにあったベンチに二人して座って休んでると、こいつが唐突に言い出した。

 

 「なぁ、お前が何に悩んでるかしんないけどよぉ。後悔しないようにしろよ。お前はいつもひけって大事な所を逃すからよぉ。」

 

 こいつは結構感が鋭いからか、それとも僕が悩んでることが表に出すぎたからか分からないが説教じみたことを垂れてきた。

 

 「分かってるよ。はい、はい、ありがとう。」

 

 「ったく、もう俺は帰るが一人で帰れるか?」

 

 こいつ回復早いな。さっきまで酒が襲ってくるだの言ってたくせに。

 

 「帰れるよ。ありがとうね、そっちも気を付けて帰れよ。」

 

 「おう」

 

 あいつはそう言うと、鼻歌を歌いながら去っていった。本当に陽気なやつだよ。

 

 僕はベンチに座ったまま夜空を見上げた。

 

 「楽しかったなぁー。」

 

 あと何回あいつと飲めるだろうか。そして僕はどうなるのだろうか。残り数十日で死ぬらしいが、果たしてこんなことで生きた証を残せるのだろうか。

 

 こうやってふと1人になるとつい考えてしまう。

 でも確かに今日は楽しかった。

 

 その日僕は頭の痛みや体の痛みに襲われながらも、どこか心地よさを感じながら夢の世界へと旅立った。

 

 

 

 

 残り96日

 

 「どうだった?良かっただろう?ボランティア。」

 

 「流石、僕!流石、神様!」

 

 「ボランティアで生きた証を残せるかって?残せるよ。えー?嘘をつくな?嘘なんてつかないよ!」

 

 「分かった、分かった。もっと君には僕のありがたみを感じて欲しいからね、特別にまた助言をしてあげる。」

 

 「本当に感謝してよね!もし聖職者が知れば五体投地して涙を滝のように流すくらいありがたいんだから!」

 

 

 「でました!次はボランティアに参加してる人達に話を聞きなさい。」

 

 「そうだね、最低50人に話を聞いてね!」

 

 「ん?なんでって?やれば分かるよ!」

 

 「何日かかるか分からない?しょうがないなー、あと10日以内に話を聞いてね!!」

 

 「そう!これはミッションだ!神様からの信託だよ!」

 

 

 「では行ってらっしゃい!僕のために面白い話を聞いてきてね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んー、どうしよう、このままじゃ彼、後悔して死ぬかも。」

 

 

 

 

 

 ここから10日経った。

残り87日。

 

 

 

 

 

 

 

残り98日、愛すべきバカ野郎たち

 

 おはよう、クソッタレな世界。

 こちらは朝から最悪な気分です。 

 

 あれはどうやら夢じゃなかったらしい。

 

 2度目だ。またクロが現れた。あの白い場所に。

 そして怒られた。後悔して死ぬだとさ。

 

 当たり前じゃないか、後悔するだろ。

 残り100日?無理でしょ。

 なにも出来ないじゃないか。

 

 はぁ、でも動くしかない。

 どうやったって時間は待ってくれないもんね。

 

 

 

 

「とか思いつつ既に夕方です。」

 

 あいつの言ってたこと全部当たってたわ。まじ?

 

 

 どうしよ。

 あっ、そうだ知恵袋にあげてみよう。

 

 Q.余命が後100日ですがどうすればいいでしょうか?

 

  A.やり残したことをやればいいと思います。

 

 僕もそう思います!!

 

 聞き方が悪かったな。少し変えよう。

 

 Q.100日後に死ぬとしたらどうしますか?

 

 A.私だったら親や友達に感謝を伝えて、何か自分の生きた証を残します。 

 

 おー!!これだよ、これ。

 こういうのを求めてた。

 

 確かに今思えば親に感謝を伝えるってしたこと無いかも、やってみるかな?

 

 でもやっぱ恥ずかしいから、やるとしたら最後かな。

 

 んー、あとは生きた証を残す、か。

 

 どうしようかな。

 そもそも僕って何が出来るか分かんないや。

 

 紙に書き出してみよう。

 

 僕の家族構成はお母さんと、再婚したお父さんと引きこもりの弟、もうすぐ結婚する姉の五人家族。

 

 僕の夢は、特に無い。

 

 好きなことは、ゲームとサッカーと読書。

 

 意外に幽霊とか信じてるタイプで、とくに守護霊はいると半ば確信してる人。

 

 嫌いなことは、いきなり死ぬよ、なんて言ってくるクソヤロウを視界に入れること。

 

 絶賛就活中!!

 

 

 はぁ、何もないやないかい!!

 

 生きた証どころか、立つ鳥跡を濁さずの如く何も残せないよ!!

 

 経歴が真っ白だよ!!まさにあの空間だね!!

 

 笑えねぇ...。

 

 

 とりあえず、ネットに住むバカ野郎たちの知恵を借りよう。僕一人じゃ何も浮かばねぇやぁ。

 

 

 

 その日の晩、僕はたくさんの知恵を得て、一つの目標を作った。

 

 

 僕は...ヒーローになる。

 

 

 

 

 

 

 

残り97日

 

 「どうしてそうなった!?」

 

 「途中までは凄く良かったじゃないか!」

 

 「なんでヒーローなのさ!特撮にでも出るの!?」

 

 「なわけないじゃないですか。バカなんですか?」

 

 「え、違うの?良かった。もう僕、君がおかしくなったかと。だって神様殴る人だもんね。」

 

 やばい、すごく殴りたい。

 

 「ヒィ!ほらっ!今思ったでしょ!」

 

 なぜバレたし。

 

 「僕は神様だよ?心を覗くなんて簡単さ。」

 

 うわぁー、引くわー。なに?神様気取りのバカ野郎がなんか人の心を覗き始めたんだけど。

 

 やっぱ、クソヤロウだわ。

 

 「ちょっと!君酷くない?どんどん酷くなってる!」

 

 ねぇ、クロが神様なら神様らしく僕を助けてくれないの?おー、まい、ごっど。

 

 「いや、それは無理。ダメです。」

 

 はぁ、だろうね。そうだろうと思ったよ。

 じゃあ、迷える子羊にアドバイスでもどう?

 

 「こんな図々しい子羊なんていないよ!」

 

 「まぁ、でもアドバイスくらいならね。あげちゃってもいいかなぁーって。」チラッ

 

 「でもお願いされてないからなー。どうしよっかなー。」チラッ

 

 

 チラチラ見るなよ真っ黒くろすけ。

 景色が濁る。

 

 「ちょっと!それ以上言ったら、アドバイスあげないからね!!絶対にあげないからね!」

 

「分かりました。分かりました。」

 

 「お願いします。クロ様。アドバイスを下さい。」

 

 「たく、しょうがないな~。」

 

 やっぱ、いいわ。

 

 「冗談さ!冗談!」

 

 クロは慌てたように言うとぶつぶつ呟きはじめた。

 

 何を言ってるか聞こえないが、真剣な声色で何か呟いてる。

 

 すると、纏まったのか顔を上げて一言。

 

「よし!ボランティアに行きなさい。」

 

 

 

次回、ボランティアに参加する。