Oze-0w0’s diary

大学生ですよ。

残り□日、いきたかった世界②

 

 わしには夢が無かった。 

 

 普通だったら1つくらいやりたいことがあるじゃろうが、わしには無かった。

 

 わしはずっと流されて生きてきた。なんとなくで高校に入り、何の目標も無いまま大学へと進学した。

 

 別に不満は無かった。むしろ掛け替えの無い親友が出来て、良かったとすら思うわい。

 

 あやつは凄いやつでの、前向きなやつで成功するべくして成功したようなやつじゃった。

 

 わしにとってあやつと友達になれたのは何よりの誇りじゃ。

 

 しかしの、だから駄目じゃったのかもしれぬ。

 

 わしはの、結局何の目標も持てなかったのじゃ。

 

 代わり映えの無い、だけど確かに安定した日々。授業を受け、バイトへ行き、帰ってゲームをして寝る。

 

 そんな日々はわしにとって何より安心できるモノじゃった。

 

 だからかの、わしは変わりたいと、親友であるあやつのようになりたいと思っていながら、心の奥底ではこの安心できる揺りかごにいつまでも浸っていたいと思っていたのじゃ。

 

 そのまま大学を卒業して、会社に勤めるようになったわしは、結婚や何かに打ち込むような事をせず、日々を漠然と過ごしていった。

 

 そんな日々でわしの唯一の楽しみはの、あやつとの飲み会じゃったよ。

 

 本当に楽しい飲み会じゃった。

 

 あやつは会う度にどんどん凄くなっていっての、元々あった差が大きく、大きくなっていった。

 

 じゃけどあやつは1回もわしを下に見なかった。圧倒的にあやつの方が上なのに関わらず、ずっと対等な友として見てくれた。

 

 そうして昨年になってあやつは逝ってもうたわい。

 

 事故などではない、寿命だと。

 

 あやつはの、わしとは違い結婚もして社長になって大往生して天へと逝ったのよ。

 

 それに比べわしはどうしているのかの。

 

 独り寂しくここで外を眺めるだけ。

 

 わしはな、変わるべきじゃった。

 あやつと肩を並べて笑いながら生きていきたかった。

 

 今更ながらにそう思うわい。

 

 それにの1つだけ、本当に1つだけ後悔していることがある。

 

 わしにはの、引きこもりの弟がいたのじゃよ。

 

 子供の頃の弟は兄ちゃん、兄ちゃんってわしにくっついて回ってきての、可愛かったわい。

 

 しかしのわしが高校に、弟が中学に中学したあたりから、パッタリと話さなくなった。

 

 多分、わしのせいじゃろう。

 

 それこそ高校に入学してすぐにの、いつものように弟が構ってきたのじゃよ。しかしのその時わしは虫の居所が悪かった。もう、理由なんて覚えておらぬ。

 

 じゃがの、わしは八つ当たりを弟にしたのじゃよ。

 

 我ながら酷く情けない。

 

 それからかの、話さなくなっての、弟は引きこもりがちになっていったのじゃ。

 

 年月が経ち、わしがの40歳くらいの時じゃ

 

 弟が首をくくって逝ってしまった。

 

 残された遺書には「ごめんなさい」と書かれておったよ。

 

 理由なんて定かでは無いがの、何故自殺したのか、わしにも分かる気がするわい。

 

 実はの、わしも自殺を図ったことがある。手首をナイフで切ったのじゃよ。

 

 あの時はの、わしは死にたかったのじゃよ。

 

 何の変化もしない、生きる意味を見出だせない日々がわしにとって拷問じゃった。これが残り何年も続くと思うと、耐えられなかったのじゃよ。

 

 しかし偶々あやつがわしの家に訪れ、わしを助けたのじゃ。嫌な予感がしたと言っておったよ。

 

 わしはあやつに今度こそ見捨てられると思ったが、あやつはわしに「弟の分まで生きろ!!」と怒鳴りつけて、友達のままでいてくれたのじゃよ。

 

 それから今ままで生きてきた。

 

 もしあの時、邪険にせず、どこかで部屋から引っ張り出せたのなら、弟は死なずに済んだのか。

 

 最近ではそのことばかり浮かんでくる。

 

 あぁ、すまんの若者よ、こんな暗い話しをして。

 

 して答えじゃったか、わしは幸せではなかった。

 不幸でもなかった。

 

 これはわしが選んだ道で、自業自得じゃよ。

 

 だからこその、若者よ。

 

 自分で道を決めるのじゃ。

 迷っても良い、寄り道をしたって、戻ったって良い。

 

 しっかりと考えて道を決め、進むのじゃよ。

 

 そしての、目的があると尚更良い。

 

 もしわしと同じように何の目的も無かったなら、後々後悔するかもしれないことを先にやってしまいなさい。

 

 本当に後悔した時には、全て終わってるからの。

 

 若者よ、ありがとう。こんな老いぼれの長話に付き合ってもらっての。

 

 そういうと年老いた僕はゆっくりと窓の外へと顔を背けた。

 

 その横顔にはやはり、寂しさが滲んでいるようだった。