残り86日、果てに求めるもの
気が付くと、あの白い空間に戻って来ていた。
「どうだった?あの道の果てにいる君を見て、どう思ったか、僕に教えてくれるかい?」
クロが僕に問いかけてくる。
「僕は、あの光景を見て、酷く安心してしまったよ。ははっ、恐ろしいとか嫌だ、とかじゃなく安心したんだ。」
もしもの世界で生きる僕が今の僕と変わらなくて心から良かったと思ってる。
仮に幸せだったら、今頃はどうしようもなく妬んで、恨んでいることだろう。
だってそれはあまりにも狡いじゃないか。
「クロはそんな僕を軽蔑する?」
僕は自虐しながらも、内心軽蔑されても仕方ないと思いながら、クロの様子を伺った。
「いいや、しないよ。」
クロが嘘をついている様子はない。
むしろどこか慈愛を含んだ声色だった。
「君は君だもの。この道の君とあの道の君は限りなく近いだけで、全く違う。彼と君は他人なんだ。」
「人が他人を妬むなんてよくあることだし、別に何とも思わないよ。」
クロはそこで一度区切ると、一呼吸おいて話し始めた。
「それで君はこれからどうするの?彼は他人だけど、確かに君なんだ。後悔して死なないように何をする?」
僕はこれに対し答えは出ていた。
僕には夢がない、目標もない。
だけど確かにあの道の僕が、答えを出していた。
「後悔しそうなことを先に済ませておくよ。」
クロは僕の答えを聞くと満足そうに頷いて、さらに問いかけてきた。
「じゃあ、明日やることは?」
「ボランティアに参加している人の話を聞いてみる。大丈夫、きちんと目的があるんだ。」
僕はもう一度クロからの指令をやってみる。
今度は目的を持ってやるんだ。
「参加している人の目的を聞くのが目的。きっと一人一人に参加している理由があると思う。それを聞いて証を残すための何かを形作るんだ。」
あの世界のあいつは証を残した。
しっかりと爪痕を残して、逝ったんだ。
だから僕も、あいつみたいに積極的に動こうと思う。
僕は頭の中で後悔しそうなことを、リストアップしていく。
あぁ、なんだ。
やりたいことがどんどん出てくる。
「そしてね、引きこもりの弟を引っ張りだす。」
「更にバイト先の先輩に告白をする。」
「家族で昔みたいにゲームなんかしたいな。」
「姉の嫁ぎ先に挨拶にも行きたい。」
「あいつにはこれから先、ずっと助けになるようなこともしてあげたい。」
残り90日もない僕にとって、これくらい出来たらきっと満足できるだろう。
満足まではいかなかったとしても、後悔は無くなると思う。
「クロ、よろしく頼むね。」
僕は今更ながらクロに協力を頼んだ。
こんなに骨を折ってくれたクロの為にも頑張らなきゃいけないな。
クロは僕に大変嬉しそうに言ったんだ。
「任せてよ!!」
あぁ、任せた。
ありがとう、クロ。
本当にありがとう。
残り86日